今デザインの世界では「ソーシャル」という言葉がキーワードになっている。
大阪のデザインネットワークMEBICでこれをテーマにイベントが開催された。
環境や地域、社会にある様々な課題に対して、デザイナー、クリエイターが
その解決にあたりながら、ビジネスとしても持続性ある成果をあげるための
新しい取り組みを紹介するものだ。
展示は7つの課題に対して7人のデザイナー(会社やその協力者を含む)が
その解決例を紹介している。
例えば、「ゴミの増加」に対しては「アウトドウショップ」に「リユース食器」を、
「地方の若者ばなれ」には「市役所・公民館」に「地方紹介冊子」を
提案するなどというものだ。
テーマによって完成度のバラつきはあるものの、いずれも決して少なくない労力を
必ずしも報酬に結びつかない仕事に注ぐ、その熱意と誠実さに敬意を表する。
別室ではキャノンがこうした活動の際必ず必要とされる
オンディマンド印刷による多品種少ロット対応の印刷機と印刷物を紹介していた。
この展示会は一週間開催されるが、初日はオープニング・トークセッションがあり、
ビジネスにソーシャルという理念を採りいれ実践している
(株)アバンティの渡邊智恵子氏と、(株)HAKUHODO DESIGNの永井一史氏が
それぞれの立場で「ソーシャル」と「ビジネス」、「デザイン」について語った。
渡邊氏は社業であるオーガニック・コットンの普及により、
農薬による環境破壊防止、遺伝子組み換え種子ビジネス市場独占による
綿栽培農家経済的支配解放、インドの年少児童労働に就学を促進させる活動、
日本のもの作りの伝統を守るなど、その社会的意義を、
永井氏は、 ECO JAPAN CUP、Pacific Water Summit、TOKYO TAP、
神戸のISSUE +design、今回の震災では「できますゼッケン」
などの紹介が行われ、それぞれの意見を交換した。
ビジネスが、そしてデザインが「ソーシャル」を意識した時、
こんな新しい視点が生まれることに気づかされたトークセッションだった。
ただ、大きな課題も浮き彫りになった。
それはいみじくも渡邊氏がオーガニック・コットン普及のため
90人のデザイナー、クリエイターにTシャツのイラストを依頼したのが無報酬であったこと、
永井氏がECOをテーマにした活動に参加を依頼され、啓蒙のために制作した広告で
「ボランティアでデザインします」と表明してしまったことが象徴的なのだが、
この種のデザインは無報酬であることが慣習化する「空気」ができてしまったのだ。
事実、この道のフロントランナーである永井氏は、
ソーシャルデザインは通常のビジネスデザインでは味わえない達成感はあるものの
現実的にはいわゆる「持ち出し」であることを認めている。
1980年代、アメリカはレーガン政権の下、
財政難から社会事業に大きな予算を割くことができなくなった。
そこで、民間がNPOを立ち上げ、その事業を担うようになってから、
「ソーシャル」「デザイン」が30年以上の実績と共に
今では社会事業を行うNPOが就職先人気度トップとなるような
認知と基盤を持つ存在に成長している。
日本でも今後「ソーシャル・デザイン」が持続可能なビジネスとして定着するためには
アメリカを先例として、関与する行政、企業、地域社会と
デザイナー、クリエイターの相互理解と意識変革が必要となるだろう。(寺本)